パタゴニア皆既日食

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レポートその7 ついに日食! の巻き

氷河観光からエル・カラファテに戻り、バスから、4X4 の雪上車に乗り換えです。
この画像からもおわかりの通り、パタゴニアの雪原、雪山専用のトラック改造車??のようでした。
上から目線で撮影したので、そんなに大きく見えませんが、実際には、タイヤ部分だけでも私ぐらいあって、間近で見るとでっかい!感じがしました。
雪上車に乗り込むステップの段が大きいので、機材を背負ったままでは登れませんでした。
こんな状態で、大丈夫だろうか・・・・一抹の不安と共に出発でした。

雪上車は、時に道なき道を登って行きます。
縦に横に、大揺れに揺れ、人が座席から投げ出されそうでした。
'The people on a bus go up and down, up and down, up and down.... ♪'
子供用の歌が聞こえてきそうでした。
ふらふらの体調とは裏腹に、おもしろくて、笑えてしまいます。

窓からは、白い大地と、雲一つない紺碧の空が見えていました。絶望の底から、一縷の光が見えた瞬間でした。

雪上車は、エンジンをうんうん唸らせながら登って行きます。頑張れ!

そして行きついた先にあったのは、そのエンジン音さえ掻き消す強風と、圧倒されるほど雄大な大自然の景色でした。

私はしばらく、景色に見とれていましたが、体が冷えていきます。「いけない・いけない。体を動かさないと・・・」
皆は、テントに入って遅い昼食を食べていました。昼食は焼き肉バーガー?: 8o厚ぐらいの海外では珍しい薄切りの牛肉の焼きたてを、2,3枚バンズにはさんだ、サンドイッチでしたが、アツアツの焼き肉が、とてもおいしかったです。
私は機材を組んでから、急いで一個食べました。早朝にわずかな朝食を取ったきりですから、ここで栄養をつけておかないと、と思いました。その他、テント内には、パンやチーズと野菜(いずれも冷たい!)が山積みになっており、自由に食べられたのですが、私は、体調的にも、精神的にも、他の物を口にできる余裕はありませんでした。

大きなテントが二張り、立ててありました。テントの前には、大きなパラボラアンテナも立ててありました。ここは南米ですし、ヨーロッパの参加者も多いので、ワールドカップを見逃すことは、日食と言えども、許せないのでしょう。大きなテントの中にはこれまた大きなテレビが用意されていました。当然大きな発電機も用意されていました。
折しもワールドカップの決勝戦の中継が始まっていました。
そうそう、ツアー会社の支給品の中には、小さなブブゼラも入っていました。(笑)。

さて、私は、観測をどこでしようか、迷いました。
雪はさほど深くはありませんでした。場所によっては、雪が飛ばされて地面がむき出しになっていました。
テントから東に降りて行くと、比較的、風も弱く、景色も良い場所になりますが、そこまでたどりつくのには、新雪?を歩かなければなりません。
浅いと言っても30pぐらいはあり、表面が凍っていて、一足ごとに、ザクッ・ずぼっと、足を取られるので、体力が要るのです。荷物が重いので、これを持ってはとても歩けないと思いました。それに、テントから見えない位置になるので、ここで倒れても、だーれも気づかないまま、冷たくなってしまうだろうと思いました。もう自分に残されている体力はわずかでしたから、ここで倒れる事は、冗談でなく本当にありうる事でした。

テントの真正面を下って行くと、奇岩がならんでおり、この風景もとてもおもしろかったのですが、やはり、距離があったのと、テントから見えないという理由で、諦めました。(一歩間違えると、奇岩で日食が見えない事にもなりそうでしたし、更に一歩間違えると、滑落しそうでした。怖い怖い。)

で、結局テントの西側の地面の見える所にしました。テントから見えるし、雪が浅いので、ここなら倒れても絶対に見つけてもらえます。
(これで、安心して、倒れられる・・・ってそうゆう意味ではありません。笑)


↑ボディーを見て一目瞭前。
パタゴニア雪原・雪山専門のトラック改造車


↑トラックは揺れながら登って行きました。

空は雲一つありませんでした。

雄大な自然と紺碧の空! 奇岩もありました。 ちょっとへたってます。(メラニー撮影)
後ろの、雪かぶる山々が綺麗でしょ?


ちなみに、日食後、ブリザードになり、この距離でも、テントまでが恐ろしく遠く感じました。

ここで、先に日食後について、おしゃべりしておきますね。

私は撤収が遅かったので、外に残って居たのは私だけで、全員がテントに入っていました。
横殴りの雪は、小さな砂利のようで、容赦なく、顔や体に当たって来ます。まともに立って歩けませんでした。
荷物は本来子供でも運べる程度の重さしかなかった筈ですが、その時の私には重すぎてどうしても運べませんでした。仕方ないので、何回かに分けて2mぐらいずつ、這うようにして、少しずつ運びました。テントは眼の前なのに、どうしてこんなに進まないんだ!?
息苦しく、胸がドキドキしました。頑張れ!もうちょっと!

ようやく、テントの脇まで来ると、風が少しおさまりました。ふう、ここで一休み。
中の声は風に掻き消されて聞こえませんでしたが、歓喜に沸いているはずでした。
私の顔からも笑みがこぼれました。テントの入り口が風ではためきます。
フランダースの犬の最後のシーンが脳裏をよぎりました。ネロ少年が、ずっと見たかったルーベンスの絵を覆っていたカーテンが風で開き、ついにその作品を見ながら、ネロ少年と犬のパトラッシュは、幸せそうに微笑みながら昇天して行きました。

何だか眠いような意識が遠のいて行きそうな自分を、懸命に起こして、テントの入り口にしがみつきました。テントの入り口は、つるつるの氷になっていました。丁度中から出てきたおっちゃんが、「おいおい、大丈夫か?」と言いながら、腕を伸ばしてくれたので、私は、そのぶっとい腕にしがみついて、テントに入って行きました。テントの中がドッと沸き、私も照れ笑をしました。テントの床には厚い敷物が敷いてありましたが、中で暖められた空気(中の水分)が床で凍り、床全面が凍っていて歩けなかったので、おっちゃんにしがみついたまま、長椅子の端に座り、ようやく生環した気分でした。

助かった!

メラニーがやって来て、「あなた、大丈夫??普通じゃないわよ。大丈夫??」と心配しながら、私の背後から私を温めるように抱き、私の両腕を懸命にさすってくれました。
私は「大丈夫。燃え尽きただけ・・・」と言いながら、笑いました。
「こんな状態でも、あなたは笑っている!」
「そうね。私達、笑ってる!」
「だから、大丈夫。その笑顔が出れば、もう大丈夫ね??」
私は、彼女に救われた思いがしました。

そう、笑っている。
そう、きっと大丈夫だ!もう大丈夫!
何だか、嬉しくなりました。
笑うと、体に血が巡って行くような気がしました。
メラニー、ありがとう!


その後、この大きな分厚いテントのあちらこちらが、バタバタと、風ではためき、今にも飛ばされそうになって来ました。男性達が、懸命に支えてくれましたが、ライトが消え、もう限界という頃、丁度雪上車がやって来て、無事乗車できました。運転手さんが、外に出た途端、風で5mぐらい吹き飛ばされました。怖!
テントはそのままでは飛ばされるので、倒され崩されました。
雪上車は皆を乗せ、来た時よりも更に大揺れしながら、時には、前から落ちるように滑りながら、急いで坂を下って行きました。

PS:なお、日食飛行機ツアーの代金は全額、返金となりました。
でも、もちろん、現地のホテル代や食事代、それから、ブエノスアイレス〜エル・カラファテの往復代は払っていますよ。(^^)/


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