柔道ルネッサンスを考える

UPDATE 2001/12/06
会場で観戦をしていない方はご存知ではないと思いますし、ご存知ではないこと自体が既に「柔道ルネッサンス」の方向性が違っていると思わざるを得ないのですが、「全国体重別」「講道館杯」の会場で、全柔連がビニール袋を配っていました。

・全柔連サイト:柔道ルネッサンスから


試合は延べ3日ありました。楢崎教子選手、井上康生選手、篠原信一選手がそれぞれの日に、会場のみなさんにメッセージがあるとのアナウンスの後、「会場を綺麗に使おう、ごみは持ちかえろう」「日本選手団は第一回フェアプレー賞を受賞した」と、原稿を読んでいました。さすがに3日目の篠原選手は同一の原稿を読みませんでしたが。

さて、この「会場を綺麗に使う」ことです。これは柔道の礼法にかない、またIJFから表彰されるのもわかります。会場が綺麗=マナーがいい、柔道のイメージ向上にもなる。

しかし会場で強調し、選手をPRに使う効果があるのでしょうか? 「会場を綺麗に使う」ことはあくまでも手段のひとつです。にも関わらず、会場を訪れた人の認識では、強調されすぎた「ごみ拾い」により、「柔道ルネッサンス=ごみを拾う美化運動」、になっているのではないでしょうか?

少なくとも、自分にはそうとしか思えません。
なぜなら、他の部分のアピールが皆無だからです。

では柔道ルネッサンスの始まりは、どのような認識でしょうか?

■柔道を通じての人間教育・柔道ルネッサンス  講道館と全柔連では、21世紀を迎え、現在柔道の国際化、競技化、スポーツ化が進み、競技の成績、試合の勝ち負けのみに注目を集めているが、嘉納師範が提唱された『柔道の究竟の目的』を−己の完成と世の補益−とされた原点に立ち返って、ここに再び人間教育に重点を置くことにより、文武両道の面からも今後の柔道の発展の一助として、この事業を立ち上げました。
・全柔連サイト:柔道ルネッサンスから引用)


素晴らしい目的です。

しかし、現場で柔道をされる方の話では、道場などにそうした運動は来ていないとのことです。学校の現場も似たようなものではないでしょうか? 会場を綺麗にと呼びかけたとして、柔道の会場にいる人は6〜8割が柔道選手、あるいは柔道関係者、つまり柔道の世界に身を置いている人たちです。

会場で呼びかけるよりも、普段の日常からこうしたことを指導・意識すればとりたてて会場で強調すべき問題ではなくなるのではないでしょうかというのが疑問点です。会場にいる観戦のみの人間に呼びかけたとして、柔道全体に効果があると思えません。公共の場では普段の姿が出てくるのですが、学校や道場といった現場レベルで柔道ルネッサンスに共感や協力を示している姿を、自分はあまり知りません。

以下も全柔連サイトからの引用です。

■活動内容(項目のみ)
1.柔道を通じての人づくり、柔道ルネッサンスのキャンペーン活動 
2.少年柔道教育活動 
  柔道の技術だけでなく、勉学,豊かな心,生きる力を育む指導を充実する。 
3.クリーンアップ活動 
  柔道の大会会場の使用状況のさらなる良化。専用のゴミ収集用の袋を用意する。
4.正しい柔道推進活動(美しい柔道・無理のない柔道) 
  「正しい礼法」の普及。一本を目指す柔道の指導。 
5.柔道ボランティア活動 
  時間に余裕の出来た柔道の先輩方が、子どもたちの指導を。
  柔道人による一般ボランティア活動の積極的な参加。 
6.広報活動 
  柔道ルネッサンスの事業を、報道関係者と協力して推進。
  柔道のイメージを上げる。 
7.障害を持つ人たちとの交流活動 
  大会会場のバリアフリー化。
  障害を持った人への柔道指導。
  パラリンピック支援。 
8.ワーキンググループ 
 全体の実行委員会をつくり、ワーキンググループ案を基に各活動小委員会をつくり、
 この事業を積極的に推進する。』
・全柔連サイト:柔道ルネッサンスから引用)


会場でこれだけ声高に叫ばれる「ごみ拾い」はわずか1項目に過ぎません。全柔連サイトの特集ページでは実際にどのような活動を現在行っているか、行って行くのかの具体的な記述も無く、柔道の総本山・講道館サイトでも、柔道ルネッサンスの影をトップに見ることは出来ません。

一例だけ、柔道ルネッサンスの活動実例が全柔連サイトにあります。

『8月21日〜24日に島根県浜田市で行われました、第32回全国中学校柔道大会では、  このクリーンアップ活動に積極的に取り組み、『ゴミの持ち帰りの敢行』を実施。  全日程において、会場のゴミが持ち帰られ、「片付けが行き届いている」と  会場関係者からの評価を得ました。』
・全柔連サイト:柔道ルネッサンスから引用)



しかしこれは8項目のうち、わずかひとつの「クリーンアップ活動」に過ぎません。なぜ「クリーンアップ活動」にここまで終始するのか、理解に苦しみます。『近代柔道』でさえも、そうした活動の始まりは告げられましたが、では実際にどうやって行われているのかについての、記事もありません。新聞記事になったでしょうか?

 柔道ルネッサンスは、「どこで」「誰が」「何の為」に行っているのでしょうか?

折角の活動で、「ごみ拾い」に終始しないで欲しいと思うのです。ごみ拾いは目的ではなく、あくまでも手段のひとつです。ネット上で話題にすらならないのも、困ったものです。

とはいえまだ始まったばかりの活動ですので、成果が見え無いと言うのも当然かもしれません。あまり批判してもしょうがないですが、もう少し「何をどうしたいのか?」を、ごみ拾い以外でアピールしないと、駄目なのではないかなと思った次第です。

さて、ここまでは前振りです。全柔連が大きな活動とした『柔道ルネッサンス』、しかし知る限りの『柔道ルネッサンス』は、全柔連が直面する現実問題の解決にはつながっていないと考えます。

競技人口の減少や登録者減少に伴う社会的地位の低下、柔道を学ぶ場所が失われる、才能が流出する、そうした危機打開策は何もこのプロジェクトにはありません。原点回帰、柔道本来の姿に立ち戻るとして、以下の問題は解決するでしょうか?

「柔道の競技力向上」
「国際柔道における日本の役割強化」
「柔道人気の上昇」


尚且つ、国際柔道そのものが、「五輪競技から外れるかもしれない危機」(これについては『五輪・柔道・お金』をご覧下さい)に直面しています。原点回帰は素晴らしいですが、同時に今起きている問題とも立ち向かわなければならないのではないででしょうか?

この3点を解決することこそが日本の柔道隆盛に繋がる確信します。

そして今、その解決策として、写真柔道雑誌『見る』柔道を提唱します。
(続き:写真柔道雑誌『見る』柔道