黄土色の斜面を登りきると、ミノブチ岳山頂だった。さすがに遮るものが何もないので風がビュービュー吹いている。 鼻水は流れるし、唇は蒼ざめてくる。 「自分の顔は見えないけど、みんな100年の恋も冷めるような顔をしてますね」と誰かが言った。 ケルンの脇にザックを降ろし、まずは交替で記念写真を撮った。みんないい顔に写っていた。 後で積み上げられた石を良く見ると、可愛いエビのシッポが出来ていた。寒いハズだ。 |
|
白い空に太陽の影がまるく見え始めると、いくらか明るくなったような気がした。 「見える!凄い!」と叫ぶ声に、後を追いかけて行くと、眼下に尾瀬沼が見えていた。 真っ白いガスの、ぽっかりと空いた空間に朝日に照らされた尾瀬沼が見えている…幻想的な風景に言葉も出ない。 みんな急いで三脚をセットしたが、ガスの流れの方が速く、あっという間に再び真っ白い世界に逆戻りしてしまった。 またガスが晴れるんじゃないかと期待して、吹雪の中で暫く待ってみたが、寒くなるばかりで二度と晴れることはなかった。 |
|
尾瀬沼の撮影は諦めて、ダケカンバの霧氷の撮影をした。 至仏山と違って、燧ケ岳には森林限界でもダケカンバが生えている。 その幾重にも分かれた枝の一本一本に氷がくっついていた。 |
|
足元に生えている背の低い樹木に目を移すと、そこはもうおとぎの国のようだった。 小さな野ウサギやキツネたちが遊んでいてもおかしくないような冬の箱庭に思われた。 こんな天候では山頂に行っても仕方がないので、最短距離のナデックボを下山することになった。 ナデックボ…雪崩窪が訛った言葉らしい。急な登山道で、振り返る度に尾瀬沼を俯瞰できると聞いていた。いったいどんな道なんだろう…? |