ゴールデンスコア制度を考える1
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メルマガで予告しながら、随分と間があいてしまいました。この頃、頻繁過ぎた試合観戦を休んでいますが、波が来ているようで、かなり柔道への集中力が落ちています。メルマガ発行でもミスが続き、大変申し訳ありません。 そんななか、前半部分ができましたので、公開します。 さて、この制度をヨーロッパ柔道連盟が導入をすると検討した段階から、既にメルマガで報じてきまして、日本でも導入が検討されるに至りましたが、2002年の韓国・世界ジュニアでも導入され、2003年の大阪世界選手権での導入も予想されます。 日本提案ではない、大きな試合運営上の改革のひとつとも言え、「カラー柔道衣」と同じく、日本の守る「柔道」の形を崩すものでは有りますが、形を崩すことそのものは結果としていい方向に転ぶ場合もありますので、長所と短所を整理して、またその導入に関わる経緯なども、あわせてお伝えします。 なぜかしら、こうした「制度改革」に関する特集は真剣に検討されず、柔道専門雑誌では黙殺される傾向にあります。「主審三人制」のように、語られすぎないのも問題とは思いますので、自分なりに問題提起を行います。 それでは、事前の情報と、導入の経緯から考えて見ます。 ○2001/03/02発行『見る』柔道 ○欧州柔道連盟のゴールデンスコア記事(調査結果も含む) (導入の経緯)提案者は、ヨーロッパ柔道連盟のバルコス審判理事(この制度を発表した当時)でした。バルコス理事は今現在、国際柔道連盟の審判理事に選出されております。・提案者が指摘する旗判定の問題点1:僅差を評価する基準がわかりにくい・難しい2:選手・コーチ、審判員、観客にも受け入れがたい結果が起こりやすい。 →透明性のある制度が必要との認識。 ・解決方法の模索1:コジマ・国際柔道連盟審判理事(当時)に伴われた中国訪問時の女子合宿で、「ポイントが得られるまで終わらない試合」を見学して、そこでひらめきを得る。2:他の競技(サッカー・テニスの方式)を参考にする。 ・導入へ向けた流れ1:2000年12月欧州ジュニア選手権〜2001年欧州選手権までの間に試験的に導入→この結果、4000試合以上のデータが得られている。 2:2001年世界選手権の際、審判理事選挙で、同制度の主唱者のバルコス氏が、現職のコジマ理事を破って当選する(日本側はコジマ理事を支持)。これにより、IJFが各大陸連盟に主催大会での同制度実施を促す公式決定。(公式記録) 3:中国でも導入(どこかで読んだ記事です) 4:2002/02/24 日本でも体育系学生柔道体重別選手権で試験的に導入。 5:2002/04 カイロの理事会で韓国開催の世界ジュニア選手権で導入決定。 上記のような過程を経ており、ゴールデンスコア制度は本格的に導入されています。以下は翻訳ではなく、矢部里が問題を見て感じたことを文章にしたものです。 (利点)1:審判の「主観」による不公平な試合決着が無くなり、選手の技で試合が決まる。→審判の旗判定が不公正な制度かどうかの検証は、文中後半にて。 2:観客、選手、コーチには審判の判定の経緯がわかりにくく、不透明であること。それらの諸問題が、目に見える「ポイント/罰則」になるので透明性がある。 (欠点)1:「審判に『消極的』と断じられた場合に、選手は罰則を受け、その為に旗判定と同じ『審判による決着』を受ける」点。2:試合時間が長引き、大会運営上の問題がある。 3:長い試合を見ることへの観客による悪印象 4:柔道の本質を損ねる(ポイント稼ぎ柔道の蔓延) ・欠点1についての自分の考えゴールデンスコアに入る前、普通の試合時間でも同様のケースがあり、審判の罰則で試合が決着することは頻繁に起こりますが、延長戦での罰則は試合を終わらせ、「一本」と同じ価値を持つ為に、その重さは選手が納得できない、旗判定と同じ構図を抱えている、「矛盾」があると考えられます。突然、ゼロから「反則負け」を言われるのです。疲労で技がすっぽ抜けただけかもしれないのに、「かけ逃げ」と… (欠点への反証としてのデータ収集)自分の考えはさておき、ヨーロッパ柔道連盟は導入に向けて、欠点と思われる点について反論する為に、利用できるデータを集める試験導入を行いました。(日本では全国体育選考の大会でアンケートが行われておりますが、その結果は今のところ不明です)・対象となった試合とその結果(欧州柔道連盟のゴールデンスコア記事を参照) 4000以上の試合で、125の延長戦(全体の3.1%)がありました。 さて、以下はその結果と、矢部里が整理した欠点との比較です。 1:「審判に『消極的』と断じられた場合に、選手は罰則を受け、その為に旗判定と同じ『審判による決着』を受ける」点。視野に無いようです。見落とした、或いは考慮していない箇所ですが、これを主張することが導入反対論者の強力な論拠と、指摘すべき矛盾になります。ただ、この矛盾が解消されれば、反対ではないとの立場も悪くないと思います。 2:試合時間が長引き、大会運営上の問題がある。AVERAGE: EXTRA TIME USED PER DAY 12 minutes 1日で平均して試合時間が12分だけ、延びたとの計算をあげています。試合の準備、試合の間、審判の疲労なども考慮に入れるべきですが、なんにせよ、想像したよりは長時間ではないと数値は物語っています。 こうした「試合時間が長引く」などの反論は新制度を導入する際(ビデオ判定)に必ず出てきますが、長引くかどうかは検証しなければわかりません。賛成派は検証し、主に反対に回る日本は検証しないまま反論するので、他者に根拠を示していない点で、検証している方が有利な立場になります。 3:長い試合を見ることへの観客による悪印象実際にアンケートを取った結果にせよ、ここで記されている範囲では、あくまでも審判理事の言葉でのみ、語られています。ここまでデータを収集するならば、必ずアンケートは取っているとは思いますが、以下、「理事がアンケートの結果から語る感想」の部分です。Once people have tried, nobody wants to go back to Hantei, coaches much prefer this system as they say from now and on they don't need to be hanging on referees decisions and even competitors they prefer to relay on their possibilities and certainly not on flags. http://www.judo-europe.com/handbook2.php 要約すると… ・(ゴールデンスコアを)一度試したら、旗判定には戻れない。 ・コーチは審判の旗判定を必要ないといい、選手は旗判定よりも信頼できると述べる。 聞き取り調査も行っていると考えると、一般的な懸念の部分、「運営サイド(欠点2)」「選手・コーチの現場サイド(欠点3)」に対しては、ヨーロッパでの意見は、好意的なようです。 2001/03/06のIJFコーチフォーラム(http://www.ijf.org/events/Seminars/budapest/coachforum1.html)でも、コーチは全体で賛意を表明しています。 Refereeing issues. 補足:制度導入はほぼ確定〜審判理事の当選とその言葉ある意味、ゴールデンスコア制度の提唱者が審判理事に選ばれた事実は、そのままその制度が支持されたと見ることが出来ます。ならばこれらに反対をしても、数の上での敗北は選挙の結果と同じになりえます。審判理事は2001/07の就任インタビューで、コジマ理事路線を継承しながら大きくは変えないが、「ゴールデンスコアの方式を永久的なものとする」と述べています。 http://www.ijf.org/whatnew/latenews/wn-bb-578.html(審判理事のインタビュー) Q : In your new role as Refereeing Director, what has changed for you and what do you hope to achieve? 単純に反論するのではなく、部分的に「この問題が解消されたら賛成」の立場を取り、懸念する箇所について、自分たちの意見を織り込んで行くのが現実的です。バルコス理事もstep by stepと述べており、急激に導入することも無いでしょうから、意見を織り込めるテーブルにつき、日本が仮に反対する根拠があるならば、相手が理解できる部分を伝えるべきです。 ただ反対するのではなく、反対する理由が解消されるならば歩み寄れる余地を残す、そうしなければ否定される否定されないの次元の問題となり、意見を否定されれば、もう何もしないと言った形でのマイナスも生み出します。 2001/07の仮導入の決定から、1年が経過しています。徐々にの言葉通り、段階を踏んで、ゴールデンスコア制度は世界ジュニアにも導入が予定されています。日本が反対するならば、既に遅いかもしれません。 では日本が(多分)織り込みたい意見とは…というのが、4の部分と思います。 4:柔道の本質を損ねる(ポイント稼ぎの柔道の蔓延)中村良三(教育・コーチ委員会)理事は、ミュンヘンでの委員会会合の際(http://www.ijf.org/commission/sp-mm-23.html)、以下のような懸念を示しています。 6) Miscellaneous ゴールデンスコア制度で懸念される「柔道の本質を損ねる」部分を日本が主張したいならば、「何がどのように本質を損ねるのか」考えなければなりません。その解答のひとつを、自分は「仮定(プレゼンテーション柔道)」として提示し、それを以降の文で論証しようと思います。 〜『旗判定の公平性』に続く〜 |