約7時間のツアーを終えてホテルに戻ったのは13時半だった。当然、夜までにはまだたっぷり時間がある。こんな時シーズン中だったら、じゃぁ、午後はヘリかセスナでマッキンリー上空を遊覧飛行しようか…なんていうことも可能だが、私たちが持っていたアクティビティの広告に載っている会社は、今年の営業を既に終了していた。
幸い、ホテルの周りは自然がいっぱいなので散歩することにした。歩くのはいいことだ。乗り物からは見えなかった小さな木の実や、おもしろい形をした草の実が目に入ってくる。それから、珍しい鳥を近くで見ることができた。カラスの仲間だが真っ黒ではなく、佐賀の県鳥になっているカチガラス(カササギ)によく似た鳥だった。名前はなんと言うのだろう?
カチガラスは、その昔、朝鮮出兵の為に佐賀を訪れた豊臣秀吉が、「カチカチ」と鳴くカササギを「勝ち勝ち」と鳴く縁起のいい鳥だと気に入って名付けたのだと聞いたことがある。最近は佐賀平野でも数が減って、あまり見かけなくなった。この鳥もカチカチと鳴くのかな…。
そーっと近づいたつもりだったが、鳴き声を聞かないうちに逃げられてしまった。ふと、星野道夫さんの本の中に出てくるワタリガラスというのはこれかも…と思ったが、あとで調べたら全然違っていた。未だになんと言う名前の鳥なのかわからない。
夕食後はオーロラ撮影に備えて早く休んだ。今夜こそ、カーテンのようなオーロラを撮影したい。出発前に見たどこかのサイトには、9月中旬の2時頃大きなオーロラを見たと書いてあった。オーロラは、秋分の日と春分の日前後に活動が活発になるらしい。今日は秋分の日の十日前だし、空が晴れていれば可能性は高い。
午前0時。目覚ましの音に飛び起きて窓の外を見た。…あいにく雲っていてがっかりした。でも、時々雲の切れ間から星空がのぞいていたりする。あまり条件は良くないが、そのうち晴れてくるかもしれない。都合のいい方に考えて、昨日と同じ場所に行ってみた。しかし、1時過ぎ、無情にも雨がぽつりぽつりと降り出してきた。夫が「昨夜もう少し頑張って起きていれば良かったな。」と言った。
チャンスの女神に後ろ髪はないのだ。教訓である。
第五章:アラスカ鉄道の旅
翌朝、雨は上がっていたが青空は雲の上だった。11時にチェックアウトを済ませ、ホテルの前からデナリパーク駅行きのバスに乗った。これからアンカレッジまでアラスカ鉄道に乗ることになっている。しかも、せっかくだから…と一般車両ではなく展望車両を予約していた。一般車両はアラスカ鉄道のものだが、展望車両は大手現地旅行会社のもので、アラスカ鉄道に連結して引っ張ってもらっているという豪華な列車である。駅には各展望車両毎に係の女性がいて、30分前までにチケットを見せてチェックインし、飛行機と同じように大きな荷物は預けなければならなかった。
列車が私たちのいるデナリパーク駅に到着したのは12時少し前だった。黄色と紺色のツートンカラーの一般車両に続いて、シルバーと紺色の展望車両が私たちの目の前をゆっくり通り過ぎて止まった。大陸の鉄道にしてはなかなか時間が正確だ。
オーロラで有名なフェアバンクスを朝8時15分に出発してきたこの列車は、これから約8時間かけてアンカレッジに向かう。今は一応シーズン中なので、アラスカ鉄道はフェアバンクス〜アンカレッジ間を上りと下りが各1本毎日運行しているが、冬季は一般車両のみ週に一便という少ない運行になるそうだ。もし、12月に乗ったら、雪に覆われたタイガの森を走るんだな…と想像すると、それはまるで絵本の中のとてもロマンチックな旅のように思われた。
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