第四章:ワイルドライフツアー
翌朝起きたら、今にも雪が降りそうな曇り空だった。昨夜は星が出ていたのに、ホントに天気の変わりやすいところだ。昨夜のサンドイッチの残りと持ってきたバナナとコーヒーで朝食を摂った。私たちの旅は節約型なので、ホテルは素泊まりだ。今夜の夕食はカップヌードルの予定になってるし…味気ない。
6時にホテルのロビーに行くと、すでに参加者がたくさん集まっていた。アジア人のおばさんグループがいたので日本人かな?と思ったが、台湾の人達らしかった。冬にオーロラツアーでやってくる日本人はとても多いそうだが、この時期にやって来る日本人は少ないのかもしれない。アラスカは今はアメリカだが、ずっと昔はロシアだったし、場所もカナダの上に位置しているせいか、初めてやって来たというアメリカ人観光客がとても多かった。
6時半にバスに乗り込むと、運転手兼ガイド役のキャサリンからワイルドライフツアーについての説明があり、デナリ国立公園のパンフレットが手渡された。座席の上の網棚にはランチボックスがあり、あとでキャサリンがカップにお湯を入れるから好きな飲み物を選んでちょーだいと言って、インスタントココアなどが配られた。キャサリンは、以前テニスの女王だったナブラチロワを陽気にしたような人だった。「私は運転して、ガイドして、ウエイトレスもやらなきゃいけないから忙しいの。皆さん、走行中は席を立ったりしないでね。もし、熊を見つけたらベアー!とかストップ!っておおきな声で教えてくれたら、停まるから。」と言って、運転席に着いた。バスは満席で、圧倒的におばさんが多くて、どこの国も同じなんだな…と思った。
キャサリンは、出発して間もなく機関銃のごとく国立公園について説明し始めていた。運転しながらよくこんなに喋れるな〜と感心しながら窓の外を見ていたら、いきなりバスが止まった。
何があったの?と運転席の方を見ると、バスのすぐ前を大きなカリブー(トナカイ)がゆっくり通り過ぎている。せっかくのチャンスだったのに、カメラを構える間もなく針葉樹林の中へ消えていってしまった。
再び、キャサリンの説明が始まり、バスが動き始めた。ツンドラの紅葉はとても綺麗で外の景色は見飽きることがなかった。赤い葉はブルーベリーだという。ところどころにヤナギランの果穂がたくさんあって、また尾瀬を思い出していた。暫くすると、後ろの席から「ベアー!」という声がした。隣の座席の女性が「見える?もっとこっちに来ていいわよ。」と、席を譲ってくれる。見ると、すぐ右側の山肌にグリズリーベア(灰色熊)が一頭いた。さかんに前足で穴を掘っている。もしかすると、土の中に獲物がいるのかもしれない。キャサリンがバスを少しバックさせて、みんなが見やすい位置に停めると、一斉にカメラとビデオがそれぞれの手に構えられ、撮影タイムとなった。
INDEXに戻る 次のページへ