デナリ国立公園は、アンカレッジから北へ382kmの場所にある、北米最高峰のマッキンリー山を擁する国立公園だ。以前は、「マッキンリー国立公園」と呼んでいたそうだが、地元の人の言葉で「偉大なもの」の意味を表すデナリ(=マッキンリー山)に変更したらしい。広さは日本の四国に匹敵するという。標高は500〜1200mあり、天候が変わりやすく夏でも厚手のセーターが必要だというから、山岳地域と同じだ。
公園では「人間は大自然にとって闖入者である」という考え方を基本に、一般車両は入口から14.8マイル地点までしか入れず、バスに乗り換えなければならないし、トレッキングをする場合でも43に区切られたブロックごとに人数制限がなされている。キャンプやトレッキングをする場合は、野生動物とのトラブルを避けるために数多くの注意事項や規制の説明を受けるそうである。
さて、デナリ国立公園の入口にあるマッキンリーシャレーホテルに着いた私たちは、チェックイン時に、日本から予約しておいた明日の「ワイルドライフツアー」の確認をした。ワイルドライフツアーとは、大型バスに乗ってマッキンリー山と野生動物ウオッチングを楽しむ日帰りツアーのことで、今回の旅で楽しみにしているものの一つだった。フロントの女性は「今年のツアーは明日で終了よ、いい時に来たわね。」と言った。ここも尾瀬と同じように、冬の間はオフシーズンを迎えるのだ。すでに、今年の営業を中止しているホテルも多く、土産物屋では今年最後のセールをしていた。
私たちが泊まったキャビンは木造の清潔な部屋で、リビングの壁には白熊の写真が飾ってあった。その白熊はとても優しい目をしていて、滞在中私たちの心を癒してくれた。
一通り荷物を片付け、スーパーマーケットで買ったサンドイッチと日本から持ってきたインスタント味噌汁で遅い夕食を済ませた時、時計はすでに22時半をまわっていた。
「星、出てるかな〜。」と言いながら窓の外を見ると、信じられないことに満天の星空だった。
「ね、見てごらん。すごい星だよ。外に行かない?星の撮影やろうヨ、ネ。」と言いながら、私は早速準備にかかった。
しかし、夫はのってこない。一人で外に出て行くのはちょっと怖いし、なんとしてでも、連れ出さなくちゃ…。
「ね、行こうよ〜。」「…」
「ねーってば!オーロラが出るかもしれないし、ちょっとでいいから付き合ってよ〜〜〜。」
「…眠い。明日は6時半出発なんだから、今日はやめよう。明日付き合うからさ…。」
「もう!」
諦めきれない私はもう一度窓の外を見て、驚いた。白いカーテンのような雲がゆらゆら動いている。
「え?あれ、もしかしてオーロラじゃない?なんか雲と違うような気がするよ。ね、そうだよ!きっとオーロラだよ。雲じゃないよ。ほらー!ねー、ちょっと来てみてよ。絶対オーロラだよ。」
うるさい妻の声に渋々窓の外を見に来た夫も、「お、ホントだ。仕方ない。行ってみるか…。」と、言った。
やっと腰をあげた夫と一緒に部屋を出て、なるだけ暗い場所へ行ってみる。
ところが、さっきみたいにゆらゆら動いていない。細長い川のような白い雲が星空に横たわっているだけだった。
「なんだ、やっぱり雲だよ。帰ろう…。」と言う夫を、「待って、一回だけ写させて!」と引き止めて、私はカメラをセットした。
24ミリF2.8のレンズを一絞りして、バルブ撮影してみる。どのくらい露光すればいいかわからないが、あまり長いとオーロラの形が崩れてしまいそうな気がするし…。結局、5分〜10分の間だったと思う。現像してみたら暗かった。でも、確かにオーロラが写っていた。
この後も、私は「あと一回だけ」を連発して5枚ほど撮影した。一度だけ、再びゆらゆら動いている時に撮影したが、夫が本当に帰りかけてしまったので、仕方なく一緒に部屋に戻った。
12時近くになっていたが、写真やTVで見たことのある色鮮やかなオーロラを見ることは出来なかった。
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第三章:デナリ国立公園