私達は仁川空港内を1時間半ほどブラブラして過ごし、夕日が沈む頃18時55分発のKE085便アンカレッジ行きに乗り込んだ。機内から黄昏迫る窓の外を見ていると、隣の飛行機のずっと向こうにある小高い山が目に入った。なだらかな稜線が至仏山によく似ていて、淡い紅色の空とその山を見ているうちに、自然と尾瀬に居るような気持ちになった。

「ね、あの山、至仏山に似てない?」と私が言うと、夫は「似てるな。だけど、どこに居ても頭の中は尾瀬だな…。アラスカやめて、今から尾瀬に行くか〜?」と呆れた声で応えた。




                       第二章:いよいよアラスカ

 凍土なんだろうか、黒っぽい灰色のツンドラの大地が機内の窓から見えたのは、ソウルを出発して約7時間が経過した頃だった。私が生まれ育った故郷の有明海の干潟に似ている。どんより曇った空から時々朝日が差し込んで、光が当たったところだけ光っていた。いよいよ、アラスカだ。誰かと波長が合うとか合わないとかって言うことがあるが、土地にも波長の合う土地とそうでない土地があるのだろうか…。ツンドラの大地が目に入ったときから、私はアラスカが気に入っていた。どんよりと垂れ込めている雲さえアラスカらしくていいと思った。こんな感覚は初めてだった。


 現地時間で朝の9時35分、飛行機は定刻どおりにアンカレッジに到着した。他の国のアジア人はトランクを開けさせられたりして時間がかかっていたのに、私たちの入国手続きはあっけなく終わった。テロの厳戒取締体制中だというのに、日本人って信用があるんだな…とつくづく思う。

 空港のロビーに出ると、大きな白熊の剥製がショーケースに入れられているのが目に入った。白熊は立っていて、今にもガオーっと襲いかかってきそうな姿をしている。ロビーの上のほうには、「WELCOME TO ALASKA」の文字があり、その両側にも熊の剥製が飾ってあった。アラスカにやってきたんだな〜と思う。野生の熊に出逢えそうな予感がして、わくわくした。



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