冥王星 惑星から降格 について


冥王星ってどんな星?

冥王星は、1930年にアメリカのクライド・トンボーにより発見され、太陽系の第9惑星と、みなされました。
実は冥王星は、姿こそ発見されていませんでしたが、何か天体がある事は予想されていました。海王星の影響以外にも、天王星の運動に乱れがあることから、19世紀末には、たくさんの天文学者が、海王星の外側にさらに惑星があるのではと考えていました。
ローウェル天文台のトンボーは、師匠パーシバル・ローウェルの予測に従って、長年、第9惑星を探索し続けました。そして、1930年に、ローウェルの予測通り、ふたご座の中に15等星の星が見つかりました。ローウェルの死から14年後の事でした。
「冥王星」の英名 PLUTO は、Parcival Lowell の頭文字とも重なり、冥王星発見のエピソードを一層豊かなものにしたようです。

当時、この発見は、大変話題になり、ディズニー映画の、この年に生まれたキャラクターにも、この名前がつけられています。ミッキーの愛犬の「プルート」って聞いたことがあるでしょう。英語で「めい王星」の事なんですよ。

また、プルートとは、ギリシャ神話の冥府(冥界)の神様のことなので、星の民俗学者であり、随筆家でもあった野尻抱影が、「冥王星」の日本名を提案した事も有名です。 (トリビア:幽霊の王様「幽王星」も、提案の一つだったらしいです。)

さて、こんな風に、他の惑星に比べ、最近(1930年)、しかも、アメリカ人の発見した唯一の惑星だったこともあり、ことに、アメリカで大人気の冥王星でしたが、皆さんもご存知の通り、2006年8月24日に惑星の定義が見直され、第9惑星からはずされてしまいました。

冥王星は、ある意味、探索・発見も含め20世紀を象徴する天体だったと思います。
それまでの惑星と違い計算上予測されていた事も、又、その暗さから言っても、人間の英知がもたらした発見だったと思います。つまり科学技術がここまで発展したからこそ、発見に至ったのだと思います。
そして20世紀終盤から21世紀、さらなる人類の進歩によって、太陽系外縁天体が次々にみつかり、ついに惑星の座を追われる運命となりました。
何だか、一つの時代に別れを告げるような気分です。
こんな風に、人類は20世紀という、一つの時代に幕を引き、新たな道を築いて行くのだろうと思います。

惑星からはずされた事は、大変さびしいことですが、なぜなのか理解するためにも、ここで、冥王星と他の惑星達と比べてみましょう。
まず、軌道を見てみましょう。
やや斜めから見た所。
(右の画像:Jaxa 提供画像。中央部の水金地火は小さすぎてつぶれています。)

8惑星の軌道はほぼ円を描いていますが、冥王星の軌道はひずんでいて、海王星の太陽からの平均距離よりも太陽に近くなる事もあります。冥王星の公転周期248年のうち、20年ほど、海王星軌道の内側に入ります。1979年から約20年間は「水金地火木土天冥海」になっていました。
一番太陽に近い所は44億km、遠い所は74億kmほどもあります。(すごい楕円です。離心率が大きいと言います。)

(トリビア: 冥王星は小さく暗すぎて、普通の望遠鏡では見えませんが、大口径の望遠鏡で見るにしても、軌道上の太陽に近い位置にある時期の方が、見える可能性は高いという事になるわけです。そして、今は冥海の直後なので、近い方と言えます。今のうちに見ておこう!って言うか、公共天文台などで見せて頂けるといいのですが・・・。)
8惑星の軌道の真横から見た所です。8惑星は、大方同じ面上に軌道があるのに、冥王星の軌道は17度も傾いています
これをご覧になると、もはや、同じ種類と呼ぶのをためらう気分になるでしょう。
しかも、他の8惑星は、自分の通り道にある物は、全て、吸収するか、はじき飛ばしてしまって、軌道上では、圧倒的な存在なのに、冥王星は圧倒的とは言えないのです。
(↑下の画像2枚 Stella Navigator)


次に位置です。
最遠の惑星と呼ばれた冥王星ですが、実は、海王星の軌道の外側には、冥王星と同じような、小さな天体がたくさん見つかっています。海王星の外側にあるこうした天体は、トランス・ネプチュニアン天体(海王星以遠天体)(TNOs)と呼ばれたり、エッジワース・カイパー・ベルト天体(EKBO)と呼ばれ、既に1000個以上ある事がわかっています。
1990年代、冥王星と同じように、軌道が大きく傾いている天体が海王星の外側にたくさんある事がわかり、更に、21世紀に入り、冥王星よりも大きいと思われる天体や同じクラスのものも発見され、冥王星は、海王星や天王星よりも、むしろ、こうした天体の方に、より似ていると思われるようになりました。つまり、どちらの兄弟かと聞かれれば、海王星や天王星の兄弟というよりは、TNO やEKBOの兄弟と考える方が、自然ではないかというわけです。
(そもそも、冥王星は海王星が大昔に移動して(って説ありで)、現在のような軌道に弾かれた?天体のようで、同じような海王星の被害者がいっぱいいて、そちらの被害者の会の代表が冥王星って考え方もできるらしいです。)


更に、大きさです。
冥王星が発見された時、それは、もっと質量の大きな星と思われていました。何しろ、天王星にも影響を与えるくらいの天体と予想されていたのですから、それ相当の質量があるはずと思われました。(暗いのは、反射率が低いだけってね?!)
ところが、科学の進歩と共に、冥王星の実態がわかり、当初の予想よりもはるかに小さいという認識に達したのです。

直径の長さ 水星:4880km、 地球:12756km、 月:3426km、  冥王星:2274km
冥王星の直径は水星の半分以下で、月よりも小さいのです。この大きさは、太陽系の中でも、冥王星の軌道付近でも、圧倒的な大きさとは言いがたく、また、この大きさを惑星として認めると、既に発見されている2003UB313などに加え、今後まだまだ惑星が増える事になってしまいます。
この2003UB313は、その衛星の「ガブリエル」と共に、アメリカのテレビ番組のキャラの名前から、俗称でゼナと呼ばれました。
後に決まった正式名称は「エリス」(混沌と不和の女神の名前)、衛星は「ディスノミア」(無法の神の名前)で、冥王星降格の騒動を起こした超本人という風なネーミングです。

また、ついでながら、冥王星の特異性として、カロンという衛星も挙げられます。
その直径は1186kmもあり、冥王星の半分以上にもなるので、共通重心が冥王星とカロンの間の宇宙空間にあるのです。つまり、冥王星を中心にカロンが回っているのではなく、お互いに回りあっていると言えるのです。このため、冥王星を惑星に残すのなら、冥王星を二重惑星として、冥王星同様カロンも惑星にしようという提案もありました。
そして、カロンが惑星ならば、カロンより大きな天体は、惑星と呼んでも良さそう・・・という事になります。
直径1186km。中途半端だから1000km以上としようとか・・・いや、それならボーデの法則に合ってる小惑星セレス(ケレス直径950km)も入れて800km以上に下げよう・・・なんて向きもあったようですし。(どこまで下がるんだ〜!)
こうなると、惑星候補生続出って事になってしまいます。
(ちなみに、冥王星には、ニクスとヒドラという衛星も発見されていますが、これらは小さいので、問題にはなりません。)


アメリカ国民の心情的には、冥王星が何とか惑星に残って欲しかったでしょうし、IAU(国際天文学連合)の提案も、惑星を12個にする形で出されたのですが、さすがに、世界各国から代表者が集まる総会とあって、この案は否決され、惑星が増えるどころか、ご存知の通り、逆に8個に減る形で採択されました。(アメリカ人の天文学者たちも、情に流されることなく、科学的に考えて、惑星降格側に賛成したという事です。)
心情や文化はどうあれ、学問的、あるいは科学的には、やはり、この線の引き方が妥当であったと、私個人は考えます。
以前、「今は土天海冥でなく、冥海だよ〜ん。」と言いながら、冥王星は惑星の中では異端児で、惑星というスター達の舞台からいつもはみでている・・・いつかこの舞台から降板されてしまうかもしれないと、よく思いました。
90年代から、物議をかもしだしていたのも事実です。 ただ、惑星に採用され扱われてきた既成事実がある以上、そう簡単にはリストラできないもので、確か3年ほど前に、冥王星は惑星!って事で、一旦は、沈静化したように思うのですが、その後の例の2003UB313(後にエリスと名付けられました。)発見で、再燃。逆に、惑星の定義付けに向けて一気に加速したようです。

そして、惑星の定義が決まりました。
(1) 太陽を周回する天体で、
(2) 自己重力が固体強度を上まわって球形になり、
(3)(重力で)自分の軌道の近傍の他天体を掃きちらしているもの。

冥王星は、(1)と(2) には、あてはまりますが、(3)に、あてはまりませんね。
つまり、自分の軌道の近くの他の天体を、自分の重力で吸収したり、はじき飛ばしたりして、はき散らしてしまっているとは言えないために、冥王星は惑星ではないって事になります。


まあこうして、冥王星は、惑星というスター達の舞台から、降ろされてしまったのですが、発見された時も、降板された時も、世界中の注目を浴び、スポットライトを独り占めにした点で、やはり冥王星は、スター性たっぷりだったという訳です。(まぎらわしい、オヤジギャグですみません<(_ _)>
それに、大人も子供も星や宇宙の事を考える良い機会を作ってくれました。
この数奇な運命?(冥王星そのものは全然変わっていませんが)は、のちのちまで、語り継がれることでしょう。

惑星ではなくなっても、冥王星が無くなるわけではないし、これからは、dwarf planet やTrans Neptunian Objects(TNOs 海王星以遠天体、太陽系外縁天体とも呼ばれます。)の代表として、活躍してくれることでしょう。

一抹のさみしさはあるものの、天文学的には、大きな貢献を果たしてくれた(くれている)冥王星です。

ありがとう!冥王星君!

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