現役最後の大会となる吉田選手の登場に会場は沸きます。出身の大石道場の子供達が声援と垂れ幕を出します。吉田選手の試合は東京予選で見ましたが、手なりに戦うといいますか、自然な流れで緩急自在の柔道のようで、怪我をしたもののすべて一本勝ち、貫禄を見せ付けました。 対戦相手は今大会最も背の高い宗選手です。昨年は棟田選手と初戦で対戦、不運なかけ逃げで敗退しましたが、今年も初戦は優勝候補のひとりです。引退がかかっており、大変にやりにくい状況だったと思います。 全日本は試合前に組み合わせがはっきり出るので、『近代柔道』の特集号を読むと、対戦選手の研究を非常にしているのがわかります。宗選手、去年も「熱い試合を多くできるように頑張ります」と書いており、試合前から気合が伝わってきました。 吉田選手も気合十分、歓声を浴びながら、掛け声を上げ、試合に臨みます。 開始後、宗選手は右、吉田選手は左で釣り手を持ち合います。宗選手が上から吉田選手の釣り手に圧力をかけ、そこから吉田選手は上を取り返しますが、宗選手、引き手を持った瞬間に払釣込足でしょうか、吉田選手を大きく崩します。 吉田選手は腹ばいで逃れますが、宗選手、フェイントを使って上から絞めを狙います。吉田選手は身体を逆回転させ、難を逃れます。 喧嘩四つ、釣り手のみの持ち合い。吉田選手が釣り手を持ちますが、宗選手の間合いを嫌ってか、何度か持ち直します。宗選手がリーチを活かし、なかなか踏み込ませません。0:52、両者に教育的指導です。 互いに間合いを取り、距離を測りあう中、先に宗選手が仕掛けます。踏み込むと同時に強引に奥襟を持ち、さらに引き手も袖か襟かわかりませんが、がっしりと体勢を作ります。一方、吉田選手は引き手を持つものの釣り手が背中を持つ感じでしょうか、今までと違った形です。 東京予選ではこの形ですと持ち上げて裏投げのような動きもあったのですが、宗選手がすかさず内股を出し、これで吉田選手の身体が浮き上がり、場内どよめきます。これは持ち上げたに留まり、真下に膝から落ちる感じでポイントにはなりませんでした。 宗選手の釣り手を、吉田選手がかなり嫌がっています。先に宗選手は釣り手を持たせるのですが、そこから持ち返しに行くと、吉田選手が自分のを外し、仕切り直します。吉田選手が切らない時の組み手を見ると、吉田選手が内側に入り、肘を宗選手の釣り手の上に乗せ、力を殺しているようです。 釣り手争いから、引き手に注意を移し、そこから釣り手を制する。吉田選手の間合いになりかけると宗選手は下からの釣り手の位置をずらし、逆に外側から潰すような感じでの組み方をします。 吉田選手はそれでも、いい形で組めており、ここで内股の踏み込み、さらにそこからもう一度、足を出しての時間差の内股で宗選手を揺さぶりますが、これは先に宗選手が立ちます。吉田選手はやや肩を気にして、間に時間が入ります。 その後も試合展開は上から潰そうとする宗選手の釣り手と、吉田選手の内側からの攻防がありますが、吉田選手はあまりこだわらず、引き手を持つと大内刈り、大外、大内と技を続け、ついには宗選手の奥襟を抑え、頭を下げさせますが、宗選手はこの体勢を逃れ、攻防の中、両者、外に出ます。 残り時間2分弱、吉田選手は釣り手を持った形で何度か腕を振りながら、しゃがみこみ、宗選手の足を持っての肩車を出します。これはタイミングも絶妙で、宗選手の体を担ぎ上げたように見えましたが、宗選手が手をついて回転の向きを変え、難を逃れます。 宗選手も持った瞬間の内股、更に踏み込んでの内股で吉田選手の身体を大きき動かします。しかし1:31、両者に引き手で指を組んだとして指導が出ます。吉田選手はもう一度、肩車を出しますが、これは読まれて上になられます。 宗選手の内股で吉田選手が動くシーンもありましたが、0:33、両者に指組で再度、罰則、注意です。直後、組合の中、宗選手が不意にうずくまり、肩を押さえました。待てが入り、宗選手はかなり痛そうにうずくまりますが、ストレッチをして、戻ります。表情がかなり痛々しかったです。 残り時間わずか、吉田選手は積極的に前に出て、足を持っての小内刈りを出しますが、これは宗選手が身体を捻って、逃れます。会場からは「防御的」ではないかと抗議の声が出ますが、審判は動きません。 さらに吉田選手は前に出て、捨て身の小外掛けで宗選手を追い詰めますが、場外、そして時間切れです。どちらが勝ったのか、なかなか審判団にとっても悩ましかったのではないでしょうか。旗判定は1−2、赤1本白2本と、宗選手が僅差判定を制しました。 吉田選手は深々と会場に礼をして、大きな拍手の中、最後の試合を終えられました。大石道場の垂れ幕を見ると、今までおつかれさまでしたのような、別の物に変わっていました。 長年の選手生活、おつかれさまでした。 |
04 | 吉田 秀彦 | × | 旗判定(1−2) | ○ | 宗 真一郎 |