全日本選手権大会
第十四試合


赤:江上 忠孝選手

(九州電力←中央大学:初出場:九州地区代表:185cm・120kg)

白:鈴木 桂治選手

(国士舘大学←国士舘高校:初出場:北海道地区代表:184cm・100kg)

この試合も、夢の対決です。江上選手は、昨年実業柔道個人優勝、講道館杯2位、今年始めの嘉納杯2位、オーストリア国際2位、選抜は篠原選手に準決勝で敗れましたが、今、最も勢いのある選手のひとりです。嘉納杯で負けた下出選手には九州大会の準決勝で、講道館杯で決勝を争った高橋選手には決勝で、それぞれ一本勝ちして、この全日本に出場しています。

一方、鈴木選手は一回戦を豪快な一本で勝ちあがっています。目の前でライバルの井上康生選手が一本勝ちしており、康生選手の試合中はずっと立っています。江上選手に勝って、三回戦へ進めれば、昨年の選抜以来となる、康生選手との直接対決が待っています。

100kg超級の実力者と、100kg級のホープ、共に初出場ですが、一本の切れ味のある技を持つ者同士の対決、見る側にも、気合が入ります。江上選手は中央大学出身で、しかも年齢が自分と同じですので、何気なく、同じ年に入学して、同じ大学で過ごして、卒業していたみたいですので、やや心の比重は江上選手寄りですし、代表になれる可能性も持っていますので、頑張って欲しいです。

とはいえ、鈴木選手も試合を何度か見ている分だけ、井上選手と対戦して欲しいなと思いますので、なかなか複雑な心境で観戦していました。

江上選手の大外刈り

江上選手、両手をだらんと下げて、ノーガード戦法のような格好で間合いを計るように、身体を揺らします。先に組みに行ったのは鈴木選手ですが、すかさず江上選手は左の大外刈りで鈴木選手を崩します。

これは袖釣込腰を警戒した為でしょうか、鈴木選手は倒れこみますが、身体を捻って、難を逃れます。

鈴木選手と江上選手は組み手の攻防を始めますが、先に奥襟を掴んだのは、鈴木選手です。左手で奥襟をがっちり持つと、重量の江上選手の頭を下げさせますから、凄い力です。

井上選手もそうですが、鈴木選手もまったく組み負けていないのが、その強さのひとつなのでしょうか。

しかし、江上選手は下の姿勢から持ち直して、鈴木選手の釣り手を切り、釣り手の袖をコントロールします。一方、鈴木選手も右の引き手は江上選手の袖を持ち、殺しています。両者頭を寄せ合うような互角の姿勢から動き出すのは、鈴木選手です。

小内刈りで大きく江上選手を後退させると、素晴らしい勢いで大内刈りでしょうか、左足で刈りに行きますが、これは江上選手が場外に押し出されて、『待て』です。

釣り手を持ちにいく鈴木選手

両者見合いながら、互いの周囲を回るように、円を描き、近寄っては離れ、離れては近寄ります。

江上選手は右で釣り手を取りに行きますが、これを鈴木選手が弾き、返す刀で鈴木選手は右で引き手を掴み、両者、喧嘩四つとなる釣り手を奪い合います。鈴木選手が奥襟を狙いますが、江上選手は防ぎ、『待て』が入ります。

ここで、江上選手のみに『組み合わない』と、『指導』が与えられます。

追う形となった江上選手は鈴木選手の左釣り手の袖を巧く封じてから大外刈りの踏み込みで、鈴木選手を揺さぶります。

しかし、鈴木選手は先ほど同様に、右の引き手争いを制していたようで、左釣り手を自由にしてから、右の引き手で江上選手を制しながら、一気に踏み込んで、奥襟を掴み、同時に大内刈りを見せ、こうなると江上選手でも、頭を下げさせられています。

流れの中で江上選手は鈴木選手のそれを片襟としますが、鈴木選手は小内刈りで江上選手の足を払って、江上選手は膝をつき、『待て』です。
次の組み手では、今までと逆に、江上選手が左の引き手で、鈴木選手の右袖を持ち、引き手を殺します。これを鈴木選手は両手で切ろうとしますが、そこを逃さず、江上選手は鈴木選手の釣り手の袖を持ち、封じながら手を進めますが、鈴木選手は引き手を奪い返し、逆に江上選手が引き手を切ります。

江上選手に持たれた左釣り手で、鈴木選手は逆の位置にある、江上選手の左手を取ろうとします。同時に、右手でも袖を奪いに行き、掴むのに成功すると小内刈りを見せますが、江上選手がこれを外すと、両者、組み手を仕切りなおして、距離を開けます。

江上選手は変則的な組み手のようで、先に右手で袖を持って、鈴木選手の釣り手を殺し、鈴木選手は反対側の右手で、江上選手の袖を持ちます。これに『待て』が入り、互いに指を組み合わせたとして、江上選手に『注意』、鈴木選手に『指導』です。

ここで再度、江上選手が先に鈴木選手の釣り手を殺します。そして、最初に見せたような形で、思い切りよく踏み込む姿勢を見せると、鈴木選手はまた袖釣込腰を警戒したのか、江上選手の背に回るような動きで腰を落としますが、これも大外刈りです。

鈴木選手は返せそうな形になりますが、江上選手の踏み込みが深く、足を抜いて身体を回して難を逃れます。江上選手はこの後も大外刈りを見せますが、今度は完全に鈴木選手が動きを読んでおり、左に回って踏み込む足を封じて、刈らせません。

江上選手の袖釣込腰?

それからの大外刈りを堪える鈴木選手

両襟を持つ鈴木選手

鈴木選手は左で釣り手が取れないと見て、ここでは有利に進めている右の引き手で襟を持ち、釣り手とします。体重をかけると江上選手の姿勢も下がり、そこへ小内刈りを出しますが、江上選手は左足を引いて外します。

もつれた接近戦を崩そうと、動きに行く鈴木選手ですが、逆に江上選手が組み勝ち、それを潰して、『待て』です。
この後、鈴木選手は再び右手で江上選手の襟を持ち、これを嫌った江上選手の隙をついて、あっという間に今まで殺されていた左釣り手を掴みます。江上選手は離れながら頭でその釣り手を切り、再び、袖を持って封じ、袖釣込腰の構えを見せます。

そして、この試合の鍵となる動き、袖釣を見せての大外刈りで鈴木選手にかけますが、今度の鈴木選手はそれをがっちり受け止めてから外すと、逆に技をかけた江上選手が前のめりに潰されます。

大外刈りを潰す鈴木選手

しかし、この後江上選手はすぐ立ち上がり、伝家の宝刀である袖釣込腰を出します。鈴木選手は巧く身体を回しながら江上選手の膝裏に足を合わせて崩し、投げさせません。そして技が崩れた江上選手を見逃さず、すかさず左の釣り手で背中を掴みます。

江上選手は前に崩され、帯をもたれますが、鈴木選手の足を掴んで倒しに行く構えを見せ、ふたりはそのまま江上選手が押す形で、場外へでます。

江上選手の袖釣込腰

鈴木選手は小刻みに技をかけ、小外刈りで揺さぶり、背負い投げのような形で攻めます。今回の試合は江上選手が鈴木選手の釣り手を封じながら、得意技に持ち込めるか、或いは鈴木選手が奥襟を持ち、組み手を制するか、その点が鍵のようです、

鈴木選手は奥襟を持つ機会を増やしていきますが、江上選手が巧く外し、距離が開くと江上選手は袖釣を見せますがこれはすっぽ抜けて体が回ります。そして大外刈りは完全に読まれて、足を伸ばす前に鈴木選手が外します。

残り時間は、一分程度でしょうか。鈴木選手は再度、強引に背中を持ちますが、以前、巧く江上選手が踏み込んで片襟にして接近して、間合いを充分にさせません。江上選手の袖釣込腰も鈴木選手に読まれ、逆に鈴木選手が袖釣込腰を見せて、江上選手を揺さぶります。

さらに、次の流れでは小内刈りで江上選手を崩し、崩れたところを上体で倒しに行きます。これを江上選手は腹這いで逃れ、『待て』です。

鈴木選手の袖釣込腰

鈴木選手の小内刈り

残り時間がわずかしかありません。ポイントで有利な鈴木選手は手を休めず、内股、戻した足での小内刈りと攻めます。江上選手、耐えると上から覆い被さり動きを止めますが、ここでブザーが鳴り、この激戦に終止符が打たれます。

試合を制したのは、相手の『注意』で、『有効』ひとつ分リードした鈴木桂治選手です。これで鈴木選手は一回戦、二回戦と勝ち上がり、自力で、井上康生選手との対戦を実現しました。康生選手は一分半ばで試合を終えていますが、鈴木選手は既にあわせて八分近く、戦っていますので、やや辛い戦いになります。

敗れた江上選手は、残った高橋選手、村元選手、棟田選手などの100Kg超級選手たちの結果次第では代表には入れる可能性もありましたが、自力での代表入りは無くなりました。江上選手、絶好調でここまで来ていただけに、残念です。

それにしても鈴木選手は重量級の選手に対しても奥襟を取れば組み勝てる力、本当に凄すぎます。いろいろと面白い、試合でした。

フルタイムの試合は、書いている方が消耗しきってしまいますね……

読んでいる人も大変とは思いますが、雰囲気が伝わったら、何よりです。



江上 忠孝 × 優勢勝ち(注意) 鈴木 桂治

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