市ノ渡選手を初めて見ましたのが、昨年の全日本団体です。篠原選手を中心とする旭化成は決勝まで3回戦い、15試合中14試合で一本勝ちしていますが、唯一、一本負けした、『取れなかった』試合があります。それが、国士舘大学戦での、『下出選手対市ノ渡選手』です。ここで市ノ渡選手は鮮やかな内股で、下出選手から一本を奪います。 |
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芳森選手は積極的に動き、開始早々、釣り手を持たれると同時にでしょうか、背負い投げを見せます。これは有効打とならず、市ノ渡選手は倒れません。 組み手の攻防が再度始まります。芳森選手の組み手が巧く、市ノ渡選手はなかなか奥襟が持てません。 両者なかなか組めませんが、ここで芳森選手は右手で相手の右襟を持ち(芳森選手の組み手はここから始まるようです)、左手で相手の釣り手を殺します。 |
即座に小外刈り、大外刈りと前へ出て行き、市ノ渡選手が封じられた釣り手を意識している間に、絶妙のタイミングで左組み手の袖釣り込み腰を見せます。 これは腹這いでポイントになりませんでした。 |
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焦らず、市ノ渡選手はどんどんどんどんと前へ出て行きます。次第に芳森選手が全身で組み手を切るシーンが、増えていきます。技が出ていなかったのを自分で意識したのでしょうか、釣り手が封じられているので、それでも出せる技、積極的な払い巻き込みを見せます。これは倒すだけでしたが、この後、試合の流れは市ノ渡選手へと傾きます。 勝負の分水嶺は、芳森選手がいかに、市ノ渡選手の釣り手を持たせないかに、あったようです。激しい攻防の末、この試合で初めて市ノ渡選手が釣り手を持った途端、芳森選手の頭が下がり、押さえつけられてしまいます。この組み手は芳森選手が崩れて、『待て』が入りました。 |
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芳森選手は戦法を遵守し、絶対に釣り手を持たせないように、自身が引き手を持ったらすぐに技をかけ、崩していきます。市ノ渡選手はそれでも前へ前へ出て積極性を失いません。 | |
勝負は、次の局面で決着しました。この試合、三回目となる釣り手を、市ノ渡選手が持ちます。今度のそれは今までよりもがっちり掴み、内股を繰り出します。しかしこれを芳森選手は足を浮かして外します。 |
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市ノ渡選手は絶好の機会を逃しません。芳森選手の足が下がらないうちに、二度目の内股で跳ね上げます。しかし、この内股は市ノ渡選手にとって、『崩し』に過ぎません。遠のいた芳森選手の足をちょうどいい位置へ寄せるよう調整して、回りながら相手の上体も引き寄せ、降ろしきらない自らの足で、最高の形に『整え』て、三度目の内股で仕上げます。 綺麗な弧を描いて、『一本』です。 軽量の選手が戦うには、如何に相手の釣り手を殺すかが、重要なようです。今回、芳森選手は徹底して釣り手を持たせないようにしていました。どの局面でも、持たれた途端、危険な状態になっています。 市ノ渡選手が数少ない、数えられるほどしかなかった好機を巧く活用した、試合でした。 |
市ノ渡秀一 | ○ | 内股(03:51) | × | 芳森 信吾 |