教育的見地から見た『内股透かし』


SINCE 2001/06/15

(まえおき)

この記事は、矢部里発行メールマガジン『見る』柔道の2001/03/06 01号と2001/03/17 02号の掲載記事と、その補筆です。全柔連がチュニジアでの判定が出た後、審判委員会に教育的見地から『内股透かし』の見解を求めました。その結果は、このハンガリー国際の時期に開かれた教育委員会で検討され、その議事内容について書いた当時の記事の転載となっています。

事実関係等、当時の認識の誤りがあるかもしれませんが、何があったかを残す為に、ここに再掲載します。


状況の整理:補筆

この誤審関係の、その後の流れをまず整理してから、転載記事へ進みます。

IJF『理事会』の議事録は現在、2000年10月末のチュニジアまで公開されています。五輪直後、オーストラリアで大会終了後にも理事会が開かれ、このなかで、チュニジアで『判定についての結論』を出すとあります。また、五輪での試合映像を『審判のビデオ教材として使う』点にもふれています。

IJF理事会オーストラリアでの会合記事

The IJF 2 recording cameras of the Olympic judo games will be analyzed by the IJF researchers, under Professor David Matusmoto, in terms of penalties called, scores overturned etc, and consistency of scores by the referees from the different countries and continents during the Olympic games. Results of the investigation will be submitted to the IJF RD in October if possible but all the results would be available for the Budapest meetings in February 2001. The IJF RD said that the Judo Videos tapes of the Olympic Games would be used for future educational tapes for the referees

ここでいうビデオの編集役はProfessor David Matusmoto氏であり、彼はフランスの柔道連盟の方だったと思います。(2002/03/08マツモト氏はアメリカの方とご指摘を受けましたので、訂正致します。ご指摘、ありがとうございます)この点で、日本側の入る余地があったら、と思いもしますが、『審判セミナー』で使用する、と書いてあります。

この他にも、オーストリアの理事会での『The IJF EC approved the Report of the IJF ED』にて、今回の反響の日本での大きさをレポートしています。チュニジアが注目されましたが、このオーストリアでも意外と重要なことが話し合われています。

チュニジアの理事会で、『内股透かしが技として成立していない(Controlが欠けている⇒技の要件を満たさなければ、如何なるポイントも発生しない)』と結論を下し、全柔連は教育委員会に対して、『内股透かし』が如何なる技か、技として消されないように、見解を求めると、その問題について、再検討を求めました。

判定の結果は、上述の引用部分赤のように、『次の試合のときにどう判定するか』に関わるのです。

さて、ハンガリー国際の審判セミナーの内容について、IJF掲示板で質問された方がおり、セミナーに参加したと思われる方からの返事があり、そこでは、『双方無効』『篠原選手の一本』『ドゥイエ氏の有効』と判断が割れたとあり、また『モナハン主審』が、『見解を変えていない』『次の世界選手権の審判候補者』であると、書かれていたと思います。

該当IJF掲示板URL

審判委員会は審判委員会議事録(ハンガリーのは公開中)で、『内股透かし』のビデオからの結論(教材として使う為の結論)は、次の審判委員会に先送りする、とあります。

ハンガリー審判委員会

9. Review video regarding:
c. Video tape of Ippon, Waza-ari, Yuko, and Koka, this is already in the Educational video.
d. Uchi-mata and uchi-mata sukashi tape will be presented at the next meeting.


この次の委員会は多分、ミュンヘンでの総会ですが、オーストラリアでは『ブダペストまでに完全な結論を出す』としたIJF理事会の決定が遅延するだけの、大きな問題なのです。個人的には先送りすることで、日本人に忘れてもらおうというのではないか、という感じもしますので、この先の流れを追うためにも、再掲と情報の整理を行いました。


2001/03/06 01号
・IJF教育委員会による『内股透かし』に関する報告

以前、篠原選手への誤審に関して、審判委員会が「多数決により、双方無効」と 結論を下し、それを理事会が承認しました。 全日本柔道連盟は「教育的見地から篠原選手の内股透かしを認めさせていく」方向で 活動すると言明しており、その成果が出ました。

YAHOO掲示板にて、紹介がありましたリンクです
(随時更新されるページの記事なのでまだ残っているでしょうか?)
報知新聞内の、共同通信社配信記事です。
http://www.yomiuri.co.jp/hochi/flash/hc_4.htm

→リンク消えていましたので、別のところを見つけました。 サンケイスポーツ http://www.sanspo.com/morespo/top/fr_top03.html
(注:2001/06/15現在では多分、消えています) 1.IJF教育委員会会合の内容を中村良三教育理事が述べている。 2.全柔連の要望にこたえ、内股透かしを検証。 3.審判理事+5人の委員(各大陸選出)の6人のうち、4人(理事含む)が 「篠原選手の一本勝ち」と判断。 4.理事会へ委員会の会合報告を提出、討議を促す。 中村理事のコメントは、「多数決により教育委員会が一体となって篠原選手の 内股透かしを一本と認める」との判断を下したのではなく、あくまでも 「討議の結果、審判委員のうち2名が不完全、4名が一本と認める結果を出した」 と報告する内容です。 理事会が審判委員会に結論を求めた前回と異なり、今回は教育委員会として 「こうした結論があったので理事会で議題にして欲しい」との範囲に留まり、 その点が「討議内容として報告するだけ」の意味のはずです。 討議するかしないか、またその結果がどうなるかは理事会に委ねられています。 ただ理事会への報告内容が審判委員会では「多数決」であったのに対して、 教育委員会は「議題があり、その結果を伝えた」点に、微妙な相違があります。 何はともあれ、篠原選手の内股透かしが一本であると教育委員会の大勢が 占めていたことはあの問題を「誤審」とした上で、 「篠原選手の勝ち」と考える勢力が、日本だけではないとの裏づけにもなりましたし、 教育委員会の公式記録に「審判委員会の大勢があの判定を篠原選手の一本と認めた」 と残った点は、非常に価値あることではないでしょうか。 全柔連も頑張っています。 ところで。 IJFページではレポーターの筆による委員会議事録が公開されていますが、 こうした内情に一切、タッチしていません。 わずかに2行、それらしい言明があるだけです。 http://www.ijf.org/events/Seminars/budapest/budapesteducation.html Uchimata Sukashi A discussion was made on the recognition of the technique Uchimata Sukashi. 公式の議事録の公開を待とうと思います。 理事会の議事録も出るんでしょうか? いまのところ更新されていません。

□IJF教育委員会議事録公開
(2001/03/17 02号より)

・IJFホームページ
http://www.ijf.org/commission/ed-mm-08.html ハンガリーで開催されたIJF教育委員会会合の議事録が公開されました。 日本では中村良三理事のコメントが報道されたのは記憶に新しいです。 全柔連から依頼された「篠原選手の五輪決勝での内股透かし」の検証を行い、 教育委員会の4名(3委員+理事)が、「篠原選手の一本」として、 残りの2名が、「双方無効」としています。 日本での報道の詳しい内容については、2001/03/06送信の21号をご覧下さい。 〜翻訳開始〜 e.技術的側面から内股透かしを検証する 全日本柔道連盟は教育委員会(EDC)に、篠原選手が試みた内股透かしの 投げ技が行われたかの検証を依頼した。 内股透かしの明瞭な基準を設けるために、この技について定義することは 必要であるが、議論は技術的側面に焦点を当てるに留め、理事会(EC)の 決定を変えようとするものではない。 決定:教育委員会は『満場一致』でそれが「内股透かしを」であることを認めた。 数名(2名)の委員が、内股(ドゥイエ選手)と内股透かしが双方とも 同程度に効果を発揮したとして「双方無効」としたが、残りの委員は(3委員+理事長)、 後者(内股透かし)がより効果を発揮しているとした。 〜翻訳終了〜 ・情報整理(上述の翻訳に基づいて) 1.満場一致で「篠原選手の内股透かしが効力を発揮した」と認める。 2.数名が「ドゥイエ選手の内股が同程度の効力を持った」として、双方無効とする。 3.残りのメンバーは「篠原選手の技の方がより強く生きていた」とした。 以前の報道では、「篠原選手の内股透かしが不完全」と2名が判断し、 残りの4名が、「篠原選手の一本」と認めたと報じられましたが、 今回の記事を読む限り、「篠原選手の内股透かしが不完全」という意味は、 「内股透かしの効果は認めているが、内股も同程度にあり、双方無効」と、 そうした形になっています。 審判委員会裁定『双方の技は効果を発揮していない』と異なり、 教育委員会は満場一致で『双方の技は効果を発揮している』としています。 教育委員会の間での差異は、『どちらの技の効果が大きいか』、その結果、 A:篠原選手の一本 B:双方同ポイント(技の威力が同じ)につき、無効 その点でしょうか。 技を殺した審判委員会裁定とまったく違い、 反対派も技が生きていたのを認めたと自分には読み取れるのですが、 翻訳ミスによる誤解でしょうか? 上述したロジックで読み取っていいのならば、かなりの前進です。 内股透かしが生きていることが前提になって、議論されているからです。 誰が議事録を書いたか、単語ひとつでも伝わり方が違うのですが…… もしも誤解・誤翻訳でしたら、御指摘ください。

(まとめ)

やや強引な解釈をしてますが、『双方の技が同程度であるから「双方無効」と考えている』のが、妥当な線のようです。 審判委員会結論は、ここではまったく考えられていない、つまり「どちらも技の要件を満たしていない」はややナンセンスな、結論ではないのかと考えられていると思います。

『篠原選手の一本』が紛れも無い事実であった場合、真実が葬られた責任を、誰が取れるのか、と思います。 まだこうした『誤審へのこだわり』があるのかと思われるかもしれませんが、誰もその責任を取れなければこそ、 時間は戻らなければこそ、そしてあの瞬間の一本を『真実』だと信じればこそ、自分にとっての 『誤審』問題は、続いていますし、いつか終わるまで、それを追い続けます。



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